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広島地方裁判所 昭和36年(モ)249号 決定

申立人 社会福祉法人広島厚生事業協会

相手方 児島弘 外八名

主文

本件申立を却下する。

理由

第一、本件申立の要旨

(一)  相手方らは申請人を相手方らとし、被申請人を申立人とする広島地方裁判所昭和三五年(ヨ)第四六八号仮処分申請事件につき同裁判所が昭和三六年一月一九日なした仮処分決定により同裁判所執行吏に委任して申立人所有物件につき差押をした。

(二)  しかしながら、右仮処分決定は次の理由によつて取り消されるべきである。すなわち、

(イ)  右仮処分決定は相手方児島弘の解雇について、昭和三五年六月二一日申立人、相手方児島弘の所属する広島一般労働組合及び広島県の間に三者協議会が成立し、右解雇は同年九月三〇日まで効力を発生させないこと、紛争は三者協議会において誠意をもつて処理することの協定が成立したのに、申立人は右協定の趣旨に基いて右三者協議会において十分な話合をしていないから右解雇は無効であるとして、相手方児島弘の従業員たる仮の地位を定め、その給料の支払を命じた。しかし申立人は右三者協議会において前後二〇数回にわたつて右労働組合及び広島県と誠意をもつて話合をしたが、結局右話合は妥結しなかつたので、相手方児島弘を解雇したのであるから、右解雇は有効である。

(ロ)  次に、右仮処分決定はその余の相手方らに対し昭和三五年一二月一三日になされた休職処分について、右休職処分は同年一一月三〇日公布によつて改正の効力が生じた就業規則に基きそれ以前の同月二五日になされた起訴処分を理由としてなされたものであるから無効であるとして給料の支給を命じたが、申立人は同年一二月一三日現在において依然起訴の効力が継続している右相手方就業規則に基き休職としたものであるから、就業規則を遡及して適用したものではない。仮に右主張が理由がないとしても、右改正前の就業規則においても、右相手方らについて存する右事由は休職処分にあたいするものであるから、休職処分は有効である。

(ハ)  仮に右主張が理由がないとしても、申立人は昭和三六年一月二〇日前記労働組合の不当な争議行為に対抗して事業場閉鎖を行つたから、この点からも相手方らに対しては同年二月分の給料を支払う必要は全くないのである。

(ニ)  次に、相手方らは現に県労傘下組合から資金カンパを受けたり、労働金庫から融資を受けたりして十分に生活できるのであるから、右仮処分を求める緊急の必要性は全くないのである。

(三)  以上の次第であるから、申立人は右仮処分決定を不服として異議を申し立て、同庁昭和三六年(モ)第六五号仮処分異議事件として係属中であるが、右仮処分決定は、これを執行すると申立人において回復することのできない損害を受けるものであるから、右異議事件の判決言渡まで右強制執行の停止を命ずる旨の決定を求める。

第二、当裁判所の判断

仮処分の裁判は、将来本案訴訟において確定さるべき請求を保全するために仮になされる緊急処分にすぎないから原則としてその内容が権利の終局的満足を得させることは許されないのであるが、仮の地位を定めるための仮処分においては例外として、裁判所が特に緊急の必要性があると認めたときは、債権者に権利の終局的満足を与える仮処分を命ずることも、仮の緊急措置である範囲を逸脱しない限りその裁量権の範囲に属するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるのに、当庁昭和三五年(ヨ)第四六八号仮処分申請事件の記録によると同事件においては、相手方児島弘は申立人から昭和三五年九月三〇日以降解雇されたものとして取り扱われているけれども、右解雇は無効であるから、右日時以降毎月二〇、三三〇円の賃金を仮に支払われるべきであると主張し、その余の相手方は、申立人から同年一二月一三日に受けた休職処分は無効であるから、休職中でない職員の地位にあるにかゝわらず、申立人が賃金の半額を支払わないとして、昭和三六年一月一日以降右賃金の半額を仮に支払わるべきであると主張し、それぞれ右地位の保全と右賃金の支払を求める仮処分命令の申請をしたところ、当庁が右申請を全面的に認容して、相手方の求める仮処分決定をしたこと、しかも右仮処分についてはその被保全権利及び必要性の存在が一応疎明されていることが明らかである。

そうすると、右仮処分は仮の地位を定めるための仮処分として権利の終局的満足を与える処分ではあるが、いまだもつて法律上許された限界を逸脱するものとはいえないことが明らかであつて申立人が指摘する第一の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の事由は異議訴訟の事由となるものではあつても、執行停止の事由とすることはできないといわなければならない。

次に申立人は右仮処分の執行の結果、申立人において回復し得ない損害を蒙るおそれがあると主張するが、右事実を疎明するに足る証拠はないから右主張も採用することができない。

そうすると、本件仮処分の執行停止を求める申立人の本件申立は失当であるから、これを却下することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 宮田信夫 宮本聖司 山田和男)

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